「検査では大きな異常がない」
「一時的に楽になっても、また痛みが戻る」
「もう何年も同じ痛みが続いている」
慢性痛でお悩みの方から、こうした声をよく聞きます。
近年の疼痛科学では、慢性痛は筋肉や関節だけの問題ではなく、脳と神経の“学習状態”が関与する状態と理解されるようになってきました。
慢性痛は「脳の可塑的変化」を伴う状態
慢性痛では、以下のような中枢神経系の変化が報告されています。
- 体性感覚野の再マッピング
- 前頭前野機能の低下
- 島皮質・帯状回の過活動
- 下行性疼痛抑制系の機能低下
Apkarianらは、慢性痛を
「痛みネットワークの可塑的再編成によって維持される状態」
と位置づけています(Apkarian et al., 2009)。
このため慢性痛は、「組織が壊れ続けている状態」ではなく、「痛みを学習してしまった状態」と捉えられます。
回復の指針:PEACE & LOVE
近年、ケガや痛みの回復原則として提唱されているのが
PEACE & LOVEです(Dubois & Esculier, 2020)。
急性期:PEACE
- Protection(保護)
- Elevation(挙上)
- Avoid anti-inflammatories(過度な抗炎症の回避)
- Compression(圧迫)
- Education(正しい理解)
回復期:LOVE
- Load(適切な負荷)
- Optimism(前向きな理解)
- Vascularisation(血流)
- Exercise(運動)
慢性痛では特に、
LOVEフェーズ=再学習の段階が重要になります。
LOVEフェーズの本質は「神経可塑性」
LOVEフェーズで行う運動や動作練習の目的は、筋力向上そのものよりも下記に示すような目的にあります。
- 安全な感覚入力の反復
- 動作予測の更新
- 「動いても大丈夫」という認知の再構築
これはすべて、神経可塑性によって成立します。
神経可塑性とは、経験や刺激によって神経回路が構造的・機能的に変化する性質です。
シナプス数、樹状突起の分岐、ネットワーク密度などが関与します。
慢性痛の改善とは、「痛みを感じやすい神経回路」から「安全に動ける神経回路」への再編成と捉えることができます。
生活習慣が神経可塑性に影響する理由
神経可塑性は、
- 運動
- 睡眠
- ストレス
- 栄養
といった生活習慣の影響を強く受けます。
その中で見落とされがちなのが、アルコールです。
アルコールは神経可塑性の「土台」に影響する
脳構造への影響
大規模神経画像研究では、
アルコール摂取量が多いほど下記の項目が小さいことが一貫して報告されています。
- 全脳容積
- 灰白質容積
- 皮質厚
(Topiwala et al., 2017/Daviet et al., 2022)
これらは、
神経細胞そのものの減少だけでなく、
シナプスや樹状突起の縮小を反映している可能性が指摘されています。
神経新生と学習能力への影響
動物研究では、アルコールが下記の現象を引き起こすことが示されています。
- 海馬での神経新生の抑制
- BDNF(脳由来神経栄養因子)の低下
(Crews et al., 2004)
海馬は、
- 記憶の更新
- 文脈学習
に重要な部位であり、
慢性痛における「痛み記憶の書き換え」とも関係します。
慢性痛とアルコールの悪循環
慢性痛の方では、
- 痛みのつらさから飲酒量が増える
- 一時的に楽になるが、長期的な改善は得られない
という傾向が報告されています
(Brennan et al., 2011)。
アルコールによる鎮静効果は、
痛みの学習を解除するものではなく、
一時的に知覚を鈍らせる作用と考えられています。
結果として下記の状態が起こりやすくなります。
- 痛み → 飲酒
- 神経可塑性の低下
- 再学習が進まない
- 慢性痛が固定化
整体とPEACE & LOVEの役割(神経科学的視点)
整体では、
- 姿勢・動作の評価
- 過剰な防御反応の調整
- 安全な可動域での運動
を通して、
神経が「安全だ」と判断できる入力を増やしていきます。
これは、感覚入力の正常化、動作予測エラーの修正、痛みネットワークの再編成に寄与します。
つまり整体は、
LOVEフェーズに必要な神経可塑性を“使える状態”に整えるサポート
と位置づけることができます。
我慢ではなく「理解して整える」
ここで大切なのは、
「お酒は絶対にダメ」という話ではありません。
PEACE & LOVEの
E(Education)と O(Optimism)の視点から、
- 慢性痛は学習状態が関与する
- 回復には可塑性が必要
- 生活習慣はその土台に影響する
と理解することが重要です。
まとめ
1.慢性痛は中枢神経の可塑的変化が関与する
2.回復にはLOVEフェーズ=再学習が不可欠
3.神経可塑性は生活習慣の影響を受ける
4.アルコールは一時的な緩和感とは別に、再学習を妨げる可能性がある
5.整体は神経が安心して学び直せる環境づくりを支援する
慢性痛は、
正しく理解し、適切に整えることで変化する余地があります。
当院の取り組み
KARADAコンディショニングスタジオ i-Potentialでは、
理学療法士が全身のバランスを評価し、
筋膜と神経のつながりを整える安全性の高い整体を行っています。
その場しのぎではなく、
再発しにくい身体づくりを大切にしています。
参考文献(文献リスト)
- Apkarian AV, et al.
Chronic pain as a disease of the brain.
Nat Rev Neurosci. 2009. - Dubois B, Esculier JF.
Soft-tissue injuries simply need PEACE & LOVE.
Br J Sports Med. 2020. - Topiwala A, et al.
Moderate alcohol consumption as risk factor for adverse brain outcomes.
BMJ. 2017. - Daviet R, et al.
Associations between alcohol consumption and gray and white matter volumes.
Nat Commun. 2022. - Crews FT, et al.
Alcohol-induced neurodegeneration and brain damage.
Alcohol Res Health. 2004. - Brennan PL, et al.
Chronic pain and alcohol use.
Pain Medicine. 2011.
