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脳科学コンディショニング法

第5回:肩こりなのに骨盤からアプローチする理由とは?モビライゼーションPNFによる遠隔部位へのアプローチ

肩こりなのに、骨盤を施術するのはなぜ?

肩こりがあると、首や肩、肩甲骨周囲を施術することが一般的です。しかし、立つ、歩く、腕を上げる、物を持つといった動作では、肩甲帯だけでなく、胸郭、体幹、骨盤、下肢も協調して働いています。

そのため、肩こりの評価では、痛みを感じる場所だけでなく、身体全体の動き方を確認することが重要です。

例えば、肩甲帯の動きに制限がある方でも、骨盤や下部体幹には比較的動かしやすい部位が残っている場合があります。そのような場合、骨盤などの遠隔部位から運動を促す方法を検討することがあります。
ただし、骨盤への施術によって肩こりが必ず改善するわけではありません。

遠隔部位へのアプローチは、身体の状態を評価したうえで選択する一つの臨床的な方法です。

モビライゼーションPNFとは?

モビライゼーションPNFは、新井光男が提唱した手技で、PNFの対角・螺旋方向の運動や適切な抵抗を用い、関節運動と神経筋機能に働きかけることを目指します。

特徴は、痛みのある場所だけに施術を限定せず、身体全体の動きを評価し、比較的動かしやすい部位から運動を促すことです。

その後、肩甲帯や体幹、骨盤などが協調して働くことを目指し、最終的に問題となる部位の運動機能を再評価します。
図5:モビライゼーションPNFによる遠隔アプローチの流れ
施術は、問題となる部位の評価から始めます。その後、比較的動かしやすい遠隔部位を選択し、対角・螺旋方向の運動を促します。施術後は、肩や頸部の動作を再評価し、必要に応じて機能的運動へつなげます。

肩こりに対する骨盤からのアプローチ

例えば、肩こりがあり、肩甲帯の運動に制限が認められる方に対して、次のような手順で施術を検討します。
1.肩・頸部・体幹の状態を評価する
頸部の回旋、肩関節の挙上、肩甲骨の動き、胸郭の運動などを確認します。
2.比較的動かしやすい遠隔部位を選択する
肩甲帯だけでなく、骨盤や下部体幹の動きも確認し、施術に用いる部位を選択します。
3.対角・螺旋方向の運動を促す
骨盤のPNFパターンなどを用い、適切な抵抗を加えながら運動を促します。
4.体幹と四肢の協調性を引き出す
施術によって、骨盤、体幹、胸郭、肩甲帯が協調して働くことを目指します。これは施術の結果として期待する運動機能上の変化であり、独立した手技ではありません。
5.肩・頸部の動作を再評価する
施術前後で頸部の回旋や肩関節の挙上、肩甲骨の動きなどを確認します。変化が認められた場合には、肩甲帯の筋力強化や日常生活動作につなげます。
骨盤への介入と肩関節の可動域に関する研究
骨盤へのPNFパターンを用いた運動が、離れた部位に及ぼす影響については、いくつかの研究が報告されています。
道祖ら(2016)は、健常成人30人を対象に、肩甲骨の後方下制および骨盤の後方下制の抵抗運動を用い、肩関節内旋可動域への影響を検討しました。肩甲骨や骨盤のパターンを用いた運動後に、肩関節内旋可動域の変化が報告されています。
また、Araiらは、骨盤下制筋群の抵抗性静止収縮後に、肩関節の結帯動作に関わる手背到達範囲の変化を検討しています。

これらの研究は、骨盤などの遠隔部位への運動が、肩関節の可動域に影響する可能性を示しています。

ただし、研究対象や評価項目には限界があります。健常成人の可動域変化や肩関節疾患の患者における可動域の変化は、慢性的な肩こりの改善と同じ意味ではありません。骨盤への施術によって肩こりが改善することを直接証明したものではない点に注意が必要です。

神経生理学的な遠隔効果の研究

PNFを用いた抵抗性静止収縮が、離れた部位のH反射に及ぼす影響についても研究が報告されています。
H反射は、Ia求心性入力や脊髄運動ニューロンの興奮性などに関係する神経生理学的指標です。AraiらやShirataniらは、骨盤や体幹、上肢などの抵抗性静止収縮が、ヒラメ筋や橈側手根屈筋のH反射に及ぼす影響を検討しています。

これらの研究は、ある部位の筋収縮刺激が、離れた部位の神経生理学的反応に関係する可能性を示しています。

しかし、H反射の変化は、肩こりの軽減や筋肉の弛緩、日常生活動作の改善と同じ意味ではありません。
神経生理学的な反応を、臨床的な治療効果と直接結びつけることはできません。

施術後は肩甲帯の筋力と運動機能へ

遠隔部位へのアプローチは、それだけで施術を完結させるものではありません。

施術後には、頸部の回旋、肩関節の挙上、肩甲骨の運動などを再評価します。その変化に応じて、肩甲帯の筋力強化、体幹運動、腕を使う機能的運動へとつなげていきます。

肩こりのケアでは、施術による一時的な変化だけでなく、日常生活の中で身体を使いやすくし、活動を継続できることが大切です。

まとめ

肩こりに対するアプローチは、首や肩だけに限定する必要はありません。骨盤などの遠隔部位から運動を促し、体幹と四肢の協調性を引き出す方法もあります。
重要なのは、骨盤への施術そのものを目的にするのではなく、身体全体を評価し、施術後の変化を確認して、肩甲帯や頸部の運動機能の改善につなげることです。
銀座のKARADAコンディショニングスタジオ i-Potentialでは、理学療法士が身体全体の動きを評価し、モビライゼーションPNFと運動療法を組み合わせたコンディショニングを行っています。
参考文献
• 新井光男.モビライゼーションPNF.メジカルプレス,2009.
• 道祖悟史,新井光男:骨盤抵抗運動が肩関節内旋筋力に及ぼす影響.PNFリサーチ,16(1):18-24,2016.
• Arai M, Shiratani T. The remote after-effects of a resistive static contraction of the pelvic depressors on the improvement of active hand-behind-back range of motion in patients with symptomatic rotator cuff tears. Biomedical Research. 2012;23(3).
• Shiratani T, Arai M, Kuruma H, Masumoto K. Remote neurophysiological rebound effects of resistive static contraction using a proprioceptive neuromuscular facilitation pattern in the mid-range pelvic motion of posterior depression on the soleus H-reflex. PNF Res. 2014;14(1):11-19.
• Arai M, Shiratani T. A comparative study of the neurophysiological remote effects of different resistive static facilitation techniques on the flexor carpi radialis H-reflex. Current Neurobiology. 2012;3(2):98-102.

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