腰が痛いのに、肩甲骨を動かすのはなぜ?
腰痛がある場合、腰部に直接アプローチすることは一般的な選択肢の一つです。しかし、立つ、歩く、寝返りをする、物を持ち上げるといった日常動作では、腰部だけでなく、肩甲骨、胸郭、骨盤、股関節、下肢が協調して働いています。
そのため、腰痛の評価では、痛みのある部位だけでなく、全身の運動機能を確認することが重要です。
例えば、腰部に動きの制限がある場合でも、肩甲骨や上肢には比較的動かしやすい部位が残っていることがあります。そのような場合、遠隔部位から運動を促す方法を検討することがあります。
ただし、
肩甲骨を動かすことで腰痛が必ず改善するわけではありません。
遠隔部位へのアプローチは、評価結果に基づいて選択する一つの方法です
。
モビライゼーションPNFとは?
モビライゼーションPNFは、新井光男が提唱した手技で、PNFの対角・螺旋方向の運動や適切な抵抗を用いながら、関節運動と神経筋機能に働きかけることを目指します。
単に痛みのある部分を動かすのではなく、身体全体の動き方を評価し、比較的動かしやすい部位を選択して、全身の協調的な運動につなげることを重視します。
施術では、問題となる部位を評価したうえで遠隔部位を選択し、対角・螺旋方向の運動を促します。その後、体幹と四肢の協調性や、問題となる動作の変化を再評価します。
腰痛に対する遠隔部位からのアプローチ
例えば、腰部に痛みがある方に対して、次のような手順で施術を検討します。
1.腰部の状態を評価する
腰部の痛み、可動性、筋活動、前屈・回旋・立ち上がりなどの動作を確認します。
2.比較的動かしやすい遠隔部位を選択する
腰部だけでなく、肩甲骨や上肢などの状態を確認し、施術に用いる部位を選択します。
3.対角・螺旋方向の運動を促す
選択した部位に対して、PNFの運動パターンと適切な抵抗を用いて運動を促します。
4.体幹と四肢の協調性を引き出す
施術によって、肩甲骨、胸郭、体幹、骨盤などが協調して働くことを目指します。これは施術の過程で期待する運動機能上の変化であり、独立した手技ではありません。
5.腰部の動作を再評価する
施術前後で腰部の可動性や前屈、立ち上がりなどを確認し、変化があれば日常生活の動作につなげます。
遠隔部位へのアプローチを考える神経生理学的研究
PNFを用いた抵抗性静止収縮による遠隔部位への反応については、H反射を指標とした研究が報告されています。
H反射は、主にIa求心性入力と脊髄運動ニューロンの興奮性などを反映する神経生理学的指標です。AraiらやShirataniらは、骨盤や体幹、上肢などの抵抗性静止収縮が、離れた部位のヒラメ筋や橈側手根屈筋のH反射に及ぼす影響を検討しています。
こうした研究は、身体のある部位への筋収縮刺激が、離れた部位の神経生理学的反応と関連する可能性を示しています。
ただし、H反射の変化は、腰痛の軽減や筋肉の弛緩、日常生活動作の改善と同じ意味ではありません。神経生理学的な反応を、臨床効果と直接結びつけることはできません。
また、遠隔部位への介入研究の対象や評価項目は研究ごとに異なります。これらの知見だけで、肩甲骨への施術が腰痛患者に有効であると結論づけることはできません。
施術だけで終わらせず、運動機能の回復へ
モビライゼーションPNFによって身体を動かしやすい状態を目指した後は、体幹や股関節の筋力強化、歩行、立ち上がり、日常生活動作などにつなげていきます。
施術前後の変化を確認し、必要な運動を選択することが大切です。施術による一時的な変化だけでなく、自分の身体を使って動ける範囲を広げ、活動を継続できることを目指します。
まとめ
腰痛に対するアプローチは、痛みのある腰部だけに限定する必要はありません。肩甲骨や上肢などの遠隔部位から運動を促し、体幹と四肢の協調性を引き出す方法もあります。
重要なのは、遠隔部位への施術そのものを目的にするのではなく、身体全体を評価し、施術後の変化を確認して、必要な運動機能の回復につなげることです。
銀座のKARADAコンディショニングスタジオ i-Potentialでは、理学療法士が身体全体の動きを評価し、モビライゼーションPNFと運動療法を組み合わせたコンディショニングを行っています。
参考文献
• 新井光男.モビライゼーションPNF.メジカルプレス,2009.
• Arai M, Shiratani T. A comparative study of the neurophysiological remote effects of different resistive static facilitation techniques on the flexor carpi radialis H-reflex. Current Neurobiology. 2012;3(2):98-102.
• Arai M, Shiratani T. Neurophysiological study of remote rebound-effect of resistive static contraction of lower trunk on the flexor carpi radialis H-reflex. Current Neurobiology. 2012;3(1):25-29.
• Shiratani T, Arai M. Remote neurophysiological rebound effects of resistive static contraction using a proprioceptive neuromuscular facilitation pattern in the mid-range pelvic motion of posterior depression on the soleus H-reflex. PNF Res. 2014;14(1):11-19.
• Arai M, Shiratani T. The Effects of Different Force Directions and Resistance Levels during Unilateral Resistive Static Contraction of the Lower Trunk Muscles on the Ipsilateral Soleus H-reflex in the Side-lying Position. J Nov Physiother. 2016;6(3):100090.
