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健康

肩の可動域制限と慢性炎症の問題

本日は、私が2012年に白谷智子先生と共同で発表した論文『The remote after-effects of a resistive static contraction of the pelvic depressors on the improvement of active hand-behind-back range of motion in patients with symptomatic rotator cuff tears(腱板損傷患者における骨盤下制筋の抵抗下静止収縮が結帯動作の可動域改善に及ぼす遠隔効果)』の内容をベースに、なぜ「骨盤」への介入が「肩」の機能改善に繋がるのか、そのメカニズムと臨床的意義について解説します。

肩関節周囲炎やローテーターカフ(回旋腱板)断裂では、肩を背中側に回す動作(いわゆる Hand-Behind-Back/HBB 可動域)が制限されることが多く、痛みや筋・腱の慢性炎症が持続的な可動域制限の一因となっています。こうした制限は、肩関節周囲の組織(筋・腱・靭帯)の柔軟性の低下だけではなく、痛みによる運動回避・筋出力低下によって慢性化することもあります。通常、可動域制限に対する治療は対象部位を直接ストレッチしたり、関節可動域訓練を行いますが、痛みのために十分な直接的治療ができないケースが少なくありません

この論文は、こうした 痛みや慢性炎症のある患者に対して、遠隔部位(骨盤)からの刺激で肩の機能改善が起こるか? という視点で実施された研究です。伝統的PNF(固有受容性神経筋促通法)の理論を応用しながら、直接ストレッチではなく、間接的な刺激(遠隔効果)で可動域改善を図る手法が検討されています。

本研究の目的:遠隔効果の実証

肩の可動域制限に対して次の3つのアプローチを比較しました:

  1. PNFパターンの1つである骨盤への後方下制運動への抵抗による静的収縮(静止性収縮)を促す(RSCPD)
    骨盤の抑制筋(骨盤を下方へ押し下げる筋)に抵抗を加え、静的に収縮させる動作を行う
    → 遠隔部位への刺激として用いる
  2. Hold-Relax(HR)PNF
    対抗筋(肩の伸展・外旋など)を収縮させ、その後リラックスさせるPNF手技
  3. 静的ストレッチ(SS)
    直接的に肩のローテーターカフをストレッチする従来の手法

対象はローテーターカフ断裂のある外来患者 12 名。3つのグループにランダムに割り付け、それぞれ20秒の介入を実施しました。可動域評価は、背中に回した手の親指と第7頸椎棘突起との距離(TSD)によって測定しています。値は介入前後の変化で統計処理されています。


研究結果:RSCPD の即時効果が有意に大きい

結果は以下のようになりました。

グループ 平均 TSD 変化量
SS(静的ストレッチ) ほぼ変化なし
HR(Hold-Relax) やや改善
RSCPD(骨盤への抵抗運動) 最も改善(統計的有意差)

要するに

RSCPD による遠隔刺激が直接ストレッチよりも即時的な可動域改善効果が大きかった という結果です。

HR についても改善傾向はありましたが、統計的には RSCPD と SS の比較でのみ有意差が出ています。

これは、痛みのある部位に直接手を触れなくても、遠隔部位への刺激が肩の機能を改善させる可能性を示唆しています。


なぜ骨盤への刺激で肩が改善するのか?

PNF における固有受容性の連鎖

PNF では、筋・腱・関節包に内在する固有受容器(筋紡錘・ゴルジ腱器官)の刺激が 中枢神経系にフィードバックされ、神経筋協調性が高まる とされています。骨盤は体幹の中心的な部位であり、ここへの抵抗刺激は全身の筋連鎖に影響を与える可能性があります。

遠隔後効果(Remote After-Effects; RAE)

この研究でいう RAE とは、別の部位の収縮刺激が遠隔の関節や筋機能に影響を及ぼす現象を指します。これは単なるストレッチ効果ではなく、神経系の「興奮性変化」を通じたものと考えられています。例えば、骨盤周囲筋の静的収縮が H-反射(脊髄反射)や筋紡錘感受性に変化をもたらし、肩周囲筋の筋活動や柔軟性を高めた可能性が指摘されています。

慢性炎症と神経筋調節の関係

慢性炎症があると、痛み回避のために筋出力が低下し、結果として可動域制限が助長されることがあります。RSCPD のような遠隔刺激は、痛み部位を避けつつ神経系全体の活性化を促し、結果として機能改善につなげるアプローチとして期待できるという考えです。


 臨床的な意義と応用

この研究は次のような臨床的意義を持ちます。

痛みで直接ストレッチができない場合の新しい選択肢

痛みが強く直接的な可動域改善が困難な場合でも、遠隔刺激による即時効果が期待できます

PNF 理論の拡張と適応

PNF は伝統的に直接的な関節・筋へのアプローチに用いられますが、体幹部へのPNF収縮刺激が四肢機能改善に貢献するというエビデンスが得られました。

即時的・神経筋調節中心の介入戦略

この手法は、炎症や痛みを悪化させずに、神経筋のコントロール向上にフォーカスした介入を行ううえで、実践的な価値があります。

慢性炎症時の即時効果と遠隔アプローチの可能性

本論文は、慢性炎症や痛みがあるローテーターカフ断裂患者に対して、従来の直接的可動域改善よりも、骨盤への遠隔刺激(RSCPD)による即時的な改善効果が高い ことを示しました。PNF の理論を基盤に、神経筋系への影響を通じて遠隔部位からの機能改善が可能であるという新たな知見として位置づけられます。

臨床面では、痛みや慢性炎症が強く直接介入が困難な場面で 遠隔刺激の適用を検討する価値があり、医療・リハビリの現場での代替手法として応用が期待されます。

(文献)

Arai Mitsuo, Shiratani Tomoko. The remote after-effects of a resistive static contraction of the pelvic depressors on the improvement of active hand-behind-back range of motion in patients with symptomatic rotator cuff tears. Biomedical Research (2012) Volume 23, Issue 3

  • 当院の取り組み

    KARADAコンディショニングスタジオ i-Potentialでは、
    理学療法士が全身のバランスを評価し、
    筋膜と神経のつながりを整える安全性の高い整体を行っています。

    その場しのぎではなく、
    再発しにくい身体づくりを大切にしています。

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