腰痛と慢性炎症をどのように考えるか
腰痛は、椎間板、椎間関節、筋・腱、神経系などの身体的要因に加え、睡眠、ストレス、仕事環境、身体活動、痛みに対する認知など、複数の要因が関係する症状です。
慢性炎症は、こうした背景を理解するうえで検討されている生理学的な要素の一つです。ただし、血液中の炎症マーカーが高いことが、個々の腰痛の直接的な原因であるとは限りません。
腰痛を慢性炎症だけで説明するのではなく、身体活動、代謝機能、局所組織の状態、神経系の働きを含めて考えることが必要です。
身体活動不足と炎症調節
身体活動が少ない生活では、筋肉を収縮させる機会が減少します。長時間の座位が続く生活では、エネルギー消費や筋活動が少なくなりやすく、代謝機能にも影響する可能性があります。
慢性的な身体活動不足は、肥満やインスリン抵抗性などの代謝異常と関連し、全身性の低度炎症と関係することがあります。
ただし、座位時間と腰痛の関係は単純ではありません。座っている時間だけで腰痛の発生や悪化を説明することはできず、姿勢の変化、休憩、仕事内容、運動習慣などを合わせて評価する必要があります。
筋肉はマイオカインを分泌する内分泌器官でもある
骨格筋は、身体を動かすための組織であると同時に、筋収縮に伴って生理活性物質を分泌する組織でもあります。筋肉由来の生理活性物質は、マイオカインと総称されます。
代表的なものの一つがIL-6です。IL-6は炎症性サイトカインとして知られていますが、運動時に筋肉から一過性に分泌されるIL-6は、エネルギー代謝や他のサイトカインの調節にも関与します。
ここで重要なのは、IL-6の作用は産生される組織、時間経過、濃度、周囲の生理環境によって異なるという点です。
運動中の一過性の筋由来IL-6上昇を、慢性的な炎症状態と同一視することはできません。
継続的な運動は、筋収縮を通じて代謝や炎症調節に関わる経路に影響する可能性があります。
一方、腰痛が改善する経路として直接証明されたわけではありません。
継続的な運動は炎症関連指標に影響する
健康な成人を対象とした38研究、2,557人のメタ解析では、長期的な運動トレーニング後にIL-6、CRP、TNF-αの低下が報告されています。
ただし、この研究は健康な対象者を中心とした運動介入研究であり、腰痛患者において同じ変化が生じることや、炎症指標の変化が腰痛改善を媒介することを直接示したものではありません。
したがって、
運動の意義は「炎症を止めること」ではなく、筋力、持久力、代謝機能、身体活動量などを総合的に改善し、健康状態を支えることにあります。
腰痛に対する運動の取り入れ方
腰痛の状態に応じて、歩行、体幹運動、股関節周囲筋の筋力トレーニング、全身運動などを段階的に取り入れます。
• 長時間座位が続く場合は、定期的に姿勢を変える
• 症状に応じて歩行などの活動を増やす
• 体幹・股関節の筋力と持久力を段階的に高める
• 継続可能な運動習慣をつくる
運動中の痛みや翌日の反応を確認し、負荷を調整することが大切です。
i-Potentialで考える腰痛ケア
当スタジオでは、腰部の可動性や筋機能だけでなく、骨盤、股関節、胸郭の動き、日常生活での身体活動状況も確認します。
モビライゼーションPNFなどを用いて運動を促した後、必要に応じて筋力強化や歩行などの活動につなげます
。
施術と運動を組み合わせ、身体機能と日常生活の活動性を支えることを目指します。
まとめ
慢性炎症や身体活動不足は、腰痛を理解するうえで検討すべき要素ですが、腰痛を炎症だけで説明することはできません。筋肉の働きや身体活動量を評価し、個人の状態に合った運動を継続することが大切です。
参考文献
• Long-term exercise training and inflammatory biomarkers in healthy subjects: a meta-analysis of randomized controlled trials. Front Psychol. 2023. doi:10.3389/fpsyg.2023.1253329.
• Rose GL, et al. Exercise intensity and chronic inflammation: a systematic review and meta-analysis. 2020.
