WEB予約
Instagram
Facebook
MAP

所長はこうみる

「痛くて動かせない場所」を直接触らずに改善できる? 所長・新井の研究が示すPNFの可能性

はじめに:「痛い場所をほぐす」だけが施術じゃない

肩こりや腰痛の施術というと、「痛い場所を直接ほぐしてもらう」というイメージが強いと思います。しかし、慢性的な痛みが続いている場合、患部を直接強く刺激することが逆効果になることがあります。

なぜでしょうか。

慢性的な痛みを抱える身体では、脳や脊髄のレベルで「痛みへの感度」が過剰に高まっています。これを**中枢感作(ちゅうすうかんさ)**と呼びます。この状態では、本来なら痛くないはずの軽い刺激でも「痛い」と感じてしまうため、患部への強い刺激がさらに痛みの回路を強化してしまう可能性があるのです。

では、どうすればよいのか。

当院の所長・新井が2012年に発表した研究論文は、この問いに対する一つの神経科学的な答えを示しています。


所長・新井の研究とは

論文タイトル(原文): A comparative study of the neurophysiological remote effects of different resistive static facilitation techniques on the flexor carpi radialis H-reflex. Arai M, Shiratani T. Current Neurobiology, 3(2): p98–102, 2012.

タイトルを日本語に訳すと、「異なる抵抗性静的促通手技が橈側手根屈筋のH反射に与える神経生理学的な遠隔効果の比較研究」となります。少し専門的な表現が並んでいますが、内容はとても重要なことを示しています。順番にわかりやすく解説します。


まず「H反射」とは何か

H反射(ホフマン反射)とは、脊髄の興奮レベルを客観的に測定する指標です。

電気刺激を末梢神経に与えると、その刺激が脊髄まで伝わり、筋肉が反応します。この反応の大きさを測ることで、「いま脊髄はどれくらい興奮しているか」を数値として確認できます。

なぜこれが重要かというと、中枢感作が起きているとき、脊髄の興奮レベルは高くなっています。つまり、H反射の変化を観察することで、「神経が過剰に興奮しているか・落ち着いているか」を客観的に評価できるのです。


研究のポイント:「離れた場所を動かすと、脊髄が落ち着く」

 

新井らの研究が明らかにしたのは、次のことです。

骨盤まわりの筋肉に対してPNFの抵抗性静的収縮(筋肉を等尺性に収縮させるPNFの手技)を行うと、離れた部位である前腕(橈側手根屈筋)のH反射が変化する。

つまり、骨盤・腰まわりを動かすことで、腕・手首の神経反射レベルが変わったということです。

これは非常に重要な発見です。患部(腕・手首)に直接触れることなく、離れた部位(骨盤)へのPNF手技によって、脊髄レベルの神経興奮が調整されたことを意味しているからです。

さらに研究では、PNFの手技の「方向」や「強度」によってH反射の変化パターンが異なることも明らかになりました。つまり、どの方向に・どれくらいの強さで抵抗を加えるかによって、脊髄への影響が変わる——手技の精度が神経系への作用を左右するということです。


これが「中枢感作の抑制」につながる可能性

ここで、先ほどの「中枢感作」の話に戻ります。

慢性的な肩こり・腰痛の背景にある中枢感作では、脊髄後角のニューロンが過剰に興奮し続けています。この状態を外から変えるには、「脊髄の興奮レベルそのものを下げる」アプローチが必要です。

新井らの研究は、PNFによる遠隔部位への適切な手技が、H反射という客観的指標を通じて脊髄の興奮レベルを変化させることができるという神経生理学的エビデンスを示しました。

これは次のような臨床的意義を持ちます。

① 患部に直接触れなくても神経系に働きかけられる 痛みが強く患部への直接刺激が困難な場合でも、骨盤や体幹などの離れた部位へのPNF手技によって、神経系のレベルから症状を改善するアプローチが可能になります。

② 強刺激による「誤学習」リスクを回避できる 慢性期に強い刺激を患部に与えると、脳が「この動きは危険だ」と再学習してしまうリスクがあります(痛みの誤学習)。遠隔効果を活用したPNFアプローチは、患部を直接刺激することなく神経系を穏やかに調整するため、このリスクを避けながら脊髄の過剰興奮を抑える可能性があります。

③ 中枢感作のサイクルを断ち切る入口になる 脊髄の興奮レベルが下がれば、脳への痛み信号の量が減り、脳の「守りのスイッチ」も少しずつ緩んでいきます。これが「慢性疼痛のサイクルを断ち切る」第一歩になり得ます。


「遠隔効果」は当院の施術の核心

新井の研究シリーズ(2012〜2016年)を通じて一貫して示されてきたのは、PNFの「遠隔効果(Remote After-Effects)」という概念です。

遠隔効果とは、収縮させた部位とは離れた場所の筋肉・神経反射・関節可動域が改善する現象のことです。

たとえば、骨盤まわりの筋肉をPNFパターンで収縮させると、肩関節の可動域が改善したり、腕の神経反射が変化したりします。これは偶然ではなく、脊髄や脳幹を介した神経系の「連鎖的な調整反応」として生じることが、H反射を用いた客観的な計測で確認されています。

当院の施術では、この「遠隔効果」を意図的に活用しています。肩が痛い患者さんに対して肩だけを触るのではなく、骨盤・腰・下肢の筋膜連鎖にアプローチすることで、患部への過剰な刺激を避けながら、神経系全体のバランスを整えていきます。


まとめ:科学的根拠に基づいた施術を

慢性的な肩こり・腰痛は、「筋肉が硬い」という局所的な問題ではなく、脊髄・脳を含む神経系全体の「過剰興奮状態」が関わっています。

新井らの研究(Arai & Shiratani, 2012)が示したように、PNFによる遠隔効果は、患部に直接触れることなく脊髄レベルの神経興奮を調整できる可能性を持っています。これは、中枢感作を抱える慢性疼痛患者さんへの施術において、理論的にも実践的にも重要な根拠です。

「何度通っても変わらない」「患部を触られると余計に痛い」とお感じの方は、ぜひ一度、この「遠隔効果」を活用したアプローチを体験してみてください。


参考論文

  • Arai M, Shiratani T. A comparative study of the neurophysiological remote effects of different resistive static facilitation techniques on the flexor carpi radialis H-reflex. Current Neurobiology. 2012;3(2):98–102.
  • Arai M, Shiratani T. Neurophysiological study of remote rebound-effect of resistive static contraction of lower trunk on the flexor carpi radialis H-reflex. Current Neurobiology. 2012;3(1):25–29.
  • Arai M, Shiratani T. The remote after-effects of a resistive static contraction of the pelvic depressors on the improvement of active hand-behind-back range of motion in patients with symptomatic rotator cuff tears. Biomedical Research. 2012;23(3):415–419.

当院の取り組み

KARADAコンディショニングスタジオ i-Potentialでは、
理学療法士が全身のバランスを評価し、
筋膜と神経のつながりを整える安全性の高い整体を行っています。

その場しのぎではなく、
再発しにくい身体づくりを大切にしています。

関連記事

最近の投稿
TEL 080-1306-4237
WEB予約