PEACEとLOVE、2つのフェーズをご存じですか?
スポーツリハビリや疼痛管理の世界で、近年注目を集めているのが「PEACE & LOVE」というフレームワークです。
従来の「RICE処置(安静・冷却・圧迫・挙上)」に代わるアプローチとして提唱されたこの考え方は、怪我や痛みのフェーズを2段階に分けて管理します。
- PEACEフェーズ(急性期):まず神経系を落ち着かせ、安全な環境を整える
- LOVEフェーズ(慢性期・回復期):段階的な運動で脳と身体の対話を取り戻す
この2つは順番に使うもの、というイメージを持たれることが多いのですが、実はそうではありません。PEACEフェーズの本質的な概念は、慢性期においても非常に重要な役割を果たします。 今回はその理由を、神経科学の視点からわかりやすく解説します。
PEACEフェーズ(急性期)の本質
PEACEフェーズの目的を一言で表すなら、「神経の過剰興奮を抑える」ことです。
怪我をした直後、私たちの神経系は一種の「非常警戒態勢」に入ります。痛みのシグナルが脳へ大量に送られ、脳はそれに応じて防御反応を強化します。筋肉は緊張し、動きは制限され、あらゆる刺激に対して敏感になる――これはいわば、身体が「自分を守るために全力を尽くしている」状態です。
この段階で重要なのは、「強刺激を与えない」ことです。
強い圧迫、無理なストレッチ、過度な運動負荷を急性期に与えると、脳は「この動きは危険だ」「この刺激は痛みを伴う」という誤った学習をしてしまう可能性があります。これを「痛みの誤学習」と呼びます。一度このパターンが神経回路に刻まれると、実際の組織が回復した後も「痛みの記憶」だけが残り続けることがあります。
だからこそPEACEフェーズでは、
- 安全であることを患者さんに丁寧に説明する(安心感の提供)
- 適切な保護と休息で神経系を守る
- 不必要な強刺激を避ける
これらが最優先となるのです。
LOVEフェーズ(慢性期)の役割
一方、LOVEフェーズは「痛みの記憶を書き換える」段階です。
慢性期に入ると、組織そのものはある程度回復していても、脳内の「痛みの地図」が古いまま残っていることがあります。「動かしたら怖い」「ここを触られると必ず痛い」という記憶が、神経回路のパターンとして定着してしまっているのです。
LOVEフェーズでは、段階的な運動を通じて「正確な感覚入力」を脳に届けます。少しずつ動かしてみる、その動きが「大丈夫だった」という成功体験を積み重ねる。この積み重ねが神経可塑性(脳の書き換え能力)を促進し、古い「痛みの記憶」を上書きしていきます。
ここが重要:PEACEの概念は慢性期にも必要
ここで多くの方が見落としがちなポイントがあります。それは
慢性期においても、PEACEフェーズの本質的な概念が引き続き重要である
、ということです。
慢性期の方が「もう組織は治っているはずなのに、なぜ強い施術をしてはいけないのか」と疑問に思われることがあります。これは非常に自然な疑問です。しかし、慢性疼痛の本質を理解すると、答えが見えてきます。
慢性期こそ「神経の過剰興奮」が問題になる
急性期に十分にケアされなかった、あるいは繰り返しのストレスや不適切な刺激によって、慢性期においても神経系は「過剰興奮状態」に置かれていることがあります。
これを「中枢感作(ちゅうすうかんさ)」と呼びます。脊髄や脳のレベルで痛みの感度が上がってしまい、本来なら痛くないはずの軽い刺激でも「痛み」として知覚されてしまう状態です。
慢性期でもこの中枢感作が続いている場合、強い圧迫・深部への強刺激・急激な可動域拡大などは、急性期と同様に「誤学習」を強化するリスクがあります。
LO
VEフェーズにいるからといって、刺激を強めれば良いというわけではないのです。
PEACEの「安全な説明」は慢性期にこそ効く
PEACEフェーズで強調される「安全な説明(再保証)」は、慢性期においてさらに大きな力を発揮します。
慢性的な痛みを抱える方は、長い間「この身体はどこかが壊れている」「動かすと悪化する」という信念を持ち続けていることが多いです。この信念自体が、神経系の過剰興奮を維持し続ける大きな要因のひとつです。
「あなたの組織は思ったより回復しています」「この動きは安全です」という科学的根拠に基づいた説明と再保証は、脳の警戒レベルを下げ、LOVEフェーズでの段階的運動の効果を最大化します。言い換えると、PEACEの「安全な文脈づくり」なしに、LOVEの「成功体験」は積み上がりにくいのです。
慢性期における2つのフェーズの統合モデル
では実際に、慢性期でPEACEとLOVEをどう組み合わせるか、整理してみましょう。
| アプローチ | 急性期(PEACE) | 慢性期における活用 |
|---|---|---|
| 神経の鎮静 | 強刺激を避け過剰興奮を抑える | 中枢感作が残る場合は同様に対応 |
| 安全な説明 | 「守られている」安心感の提供 | 「身体は回復できる」という再保証 |
| 段階的刺激 | 急性炎症の保護が優先 | 成功体験を積む軽負荷からの漸増 |
| 感覚の再教育 | — | 正確な固有感覚入力で脳の地図を更新 |
慢性期において重要なのは、
LOVEフェーズの「動かす・使う」というアクティブなアプローチを基本軸としながら、
PEACEフェーズの「神経を安全な状態に保つ」という視点を常に忘れないことです。
この2つは対立するものではなく、慢性期においても共存するべき概念なのです。
まとめ
- PEACEフェーズの本質は「神経の過剰興奮を防ぐ」こと。急性期だけに使う考え方ではない
- 慢性期でも中枢感作が残存していれば、強刺激は「痛みの誤学習」を深める可能性がある
- 「安全な再保証」というPEACEの概念は、慢性期の患者さんの脳の警戒レベルを下げるうえで非常に有効
- LOVEフェーズの段階的運動は、PEACEの「安全な文脈」があって初めて最大の効果を発揮する
慢性的な痛みや重だるさを抱える方の回復には、組織へのアプローチだけでなく、
神経系と脳への丁寧な働きかけが欠かせません。
PEACEとLOVE、2つのフレームワークを統合的に活用することこそが、慢性疼痛からの真の回復への道筋となるのです
当院の取り組み
KARADAコンディショニングスタジオ i-Potentialでは、
理学療法士が全身のバランスを評価し、
筋膜と神経のつながりを整える安全性の高い整体を行っています。
その場しのぎではなく、
再発しにくい身体づくりを大切にしています。
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