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所長はこうみる

所長はこうみる③ 筋膜という「もう一つの筋肉」の正体

前回は、体の歪みがどのように悪循環を引き起こすのかをお話ししました。今回は、この体の歪みと密接に関係している「筋膜」について詳しく見ていきましょう。

「筋膜って何?聞いたことがない」という方も多いかもしれません。でも実は、この筋膜こそが、あなたの体の不調を理解する上で非常に重要な鍵を握っているのです。

筋膜って何?身近なもので例えると…

全身を包む「ボディスーツ」のような存在

筋膜を一言で表現するなら、「全身を包むボディスーツ」のような存在です。

想像してみてください。体にぴったりとフィットする、透明で薄い全身タイツを着ているところを。この全身タイツが、あなたの筋肉や内臓、骨格のすべてを包み込んでいる—それが筋膜です。

ソーセージの薄皮、みかんの薄皮をイメージ

もう少し身近な例で考えてみましょう。

ソーセージを食べるとき、中身の肉を包んでいる薄い皮がありますよね。あの薄皮のように、私たちの筋肉一つひとつも、薄い膜に包まれています。

また、みかんを食べるときを思い出してください。外側の厚い皮をむくと、房を包んでいる薄い白い膜があります。さらに、房の中の一粒一粒も、薄い膜に包まれています。

筋膜も同じような構造をしています。体全体を包む大きな膜があり、筋肉のグループを包む膜があり、一つひとつの筋肉を包む膜があるのです。

単なる「包装紙」ではない特別な組織

ただし、筋膜は単に筋肉を包んでいるだけの「包装紙」ではありません。実は、筋膜自体が収縮したり、力を伝達したりする、とても重要な働きをしているのです。

そのため、筋膜は「もう一つの筋肉」と呼ばれることもあります。

筋膜の驚きの連結性

足の裏から頭まで一枚でつながっている

筋膜の最も驚くべき特徴は、全身が一枚の膜でつながっていることです。

足の裏の筋膜は、ふくらはぎの筋膜とつながり、太ももの筋膜とつながり、腰の筋膜とつながり、背中の筋膜とつながり、首の筋膜とつながり、最終的には頭の筋膜まで到達します。

つまり、あなたの足の裏から頭のてっぺんまで、筋膜という一本の糸でつながっているのです。

手を引っ張ると腰に影響する理由

この全身のつながりがあるため、体の一部分に変化が起こると、思いもよらない遠くの部位に影響が現れることがあります。

例えば、手首を痛めてしばらく安静にしていたら、なぜか腰痛が出てきた、ということはありませんか?これは、手首をかばうことで腕の筋膜に変化が起こり、それが背中を通って腰の筋膜にまで影響を与えた可能性があります。

また、足首の捻挫をした後に、反対側の肩がこるようになった、という経験をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。これも、筋膜の全身的なつながりによって説明できる現象です。

「筋膜の高速道路」で全身がつながっている

筋膜の研究が進むにつれて、特に重要な筋膜のつながりがいくつか発見されています。これらは「筋膜ライン」と呼ばれ、まるで体の中の「高速道路」のような役割を果たしています。

例えば:

  • 背面の筋膜ライン:足の裏→ふくらはぎ→太ももの後ろ→腰→背中→後頭部
  • 前面の筋膜ライン:足の甲→すねの前→太ももの前→お腹→胸→首の前
  • 側面の筋膜ライン:足の外側→太ももの外側→腰の横→脇腹→首の横

これらのラインに沿って、力や緊張、そして時には痛みまでもが伝達されるのです。

筋膜が硬くなる・癒着する原因

長時間同じ姿勢で「のり」でくっついた状態に

筋膜は本来、滑らかで柔軟な組織です。正常な状態では、筋膜同士が滑らかに滑り合い、筋肉の動きを助けています。

しかし、長時間同じ姿勢を続けていると、筋膜同士が「のり」でくっついたような状態になることがあります。これを「癒着」と呼びます。

デスクワークで同じ姿勢を続けていると、肩や背中の筋膜が癒着し、動きにくさや痛みの原因となります。また、睡眠中も同じ姿勢を長時間続けるため、朝起きたときの体の硬さも、筋膜の癒着が関係していることがあります。

ストレスで筋膜が縮こまる

意外に思われるかもしれませんが、精神的なストレスも筋膜に大きな影響を与えます。

ストレスを感じると、私たちは無意識に体を縮こまらせる傾向があります。肩をすくめ、首を縮め、背中を丸める—この姿勢が続くと、筋膜も同じように縮こまった状態で固まってしまいます。

「ストレスがたまると肩がこる」というのは、単なる気のせいではなく、実際に筋膜レベルでの変化が起こっているのです。

水分不足で筋膜がパリパリに

筋膜の健康には、十分な水分が不可欠です。筋膜は、約70%が水分でできています。

水分が不足すると、筋膜は乾燥してパリパリの状態になります。これは、濡れたティッシュが乾燥してカピカピになるのと似ています。

このような状態になると、筋膜の滑りが悪くなり、筋肉の動きが制限されます。また、少しの動きでも筋膜に負担がかかりやすくなり、痛みの原因となることもあります。

筋膜の問題が引き起こす症状

動きにくさ、だるさの正体

「なんとなく体が重い」「動きがぎこちない」「いつも疲れている」—こんな症状に心当たりはありませんか?

これらの症状の背景には、筋膜の問題が隠れていることがよくあります。

筋膜が癒着したり硬くなったりすると、筋肉は本来の力を発揮できなくなります。同じ動作をするのにも、より多くのエネルギーが必要になり、疲れやすくなってしまうのです。

むくみとの深い関係

筋膜の問題は、むくみとも密接に関係しています。

筋膜が硬くなると、その周囲の血管やリンパ管が圧迫されることがあります。すると、血液やリンパ液の流れが悪くなり、老廃物がたまりやすくなったり、余分な水分が排出されにくくなったりします。

これが、夕方になると脚がむくんだり、朝起きたときに顔がむくんだりする原因の一つなのです。

痛みが移動する不思議な現象

筋膜の全身的なつながりのため、痛みが移動するという不思議な現象が起こることがあります。

例えば、「今日は右肩が痛かったのに、明日は左の腰が痛くなった」というような経験はありませんか?

これは、最初に痛みが出た部位をかばうことで、筋膜のライン全体に緊張が波及し、別の部位に新たな問題が生じた可能性があります。

このような痛みの移動は、問題の根本が筋膜レベルにあることを示唆しています。

呼吸との深い関係

深い呼吸が全身の筋膜に影響する理由

呼吸と筋膜には、非常に深い関係があります。

深い呼吸を行う際に重要な役割を果たすのが、横隔膜という筋肉です。横隔膜が動くと、お腹の深いところにある腹横筋という筋肉も一緒に動きます。

そして、この腹横筋は、背中の筋膜を通じて、なんと手や足の筋膜とまでつながっているのです。つまり、深い呼吸をすることで、横隔膜から始まった動きが、筋膜のネットワークを通じて全身に伝わっていくのです。

浅い呼吸が招く全身の緊張

逆に、浅い呼吸が続くと、この全身のつながりが十分に活用されません。

現代人の多くは、ストレスや悪い姿勢の影響で、胸だけを使った浅い呼吸になりがちです。このような呼吸では、横隔膜が十分に動かず、筋膜のネットワークも活性化されません。

その結果、筋膜が硬くなりやすくなり、全身の緊張や痛みの原因となってしまうのです。

正しい呼吸で筋膜をリセット

逆に言えば、正しい深い呼吸を行うことで、筋膜の状態をリセットすることができます。

深い呼吸を意識的に行うと、横隔膜から始まって全身の筋膜が動き、癒着した部分がほぐれたり、緊張が和らいだりします。

これが、「深呼吸をすると体が楽になる」「ヨガや瞑想で体の調子が良くなる」という現象の科学的な理由の一つなのです。

あなたの筋膜は今どんな状態?

簡単なチェック方法

ご自身の筋膜の状態を簡単にチェックしてみましょう:

  1. 朝起きたときの体の硬さはどうですか?
  2. 長時間座った後、立ち上がるときに体が重く感じませんか?
  3. 肩を回したときに、ゴリゴリと音がしませんか?
  4. 深く息を吸ったとき、胸やお腹が十分に膨らみますか?
  5. 首を左右に回したとき、左右で動きやすさに差はありませんか?

これらの項目に心当たりがある場合は、筋膜に何らかの問題が生じている可能性があります。

小さな変化から始まる改善

筋膜の問題は、長年の積み重ねによって生じることが多いため、一朝一夕に改善するものではありません。しかし、適切なアプローチを継続することで、確実に改善させることができます。

まずは、日常生活の中で筋膜を意識することから始めてみてください。同じ姿勢を長時間続けない、こまめに体を動かす、深い呼吸を心がける—これらの小さな心がけが、筋膜の健康を保つ第一歩となります。

次回予告:脳が体をコントロールする驚きの仕組み

今回は、全身をつなぐ筋膜の重要性についてお話ししました。次回は、この筋膜からの情報を受け取って、体全体をコントロールしている「脳」の働きについて詳しく見ていきます。

脳がどのようにして体の動きを制御しているのか、そして痛みによってその制御システムにどのような変化が起こるのかを、わかりやすく解説します。

あなたの体に隠された、脳と体の精巧な連携システムの秘密を一緒に探っていきましょう。きっと、自分の体への見方が大きく変わるはずです。

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