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健康

【最新研究で解説】静的ストレッチと動的ストレッチの正しい使い分け~なぜ「朝のストレッチ」でアキレス腱を痛めるのか?~

ストレッチは、身体の柔軟性を高め、ケガの予防や疲労回復、リラックスを促す方法として多くの方に親しまれています。
しかし、実は“やり方”や“タイミング”を間違えると、筋肉や腱、関節包といった組織を傷めてしまうことがあるのをご存じでしょうか。

今回は、ストレッチの歴史的背景から最新研究までをもとに、「静的ストレッチ」と「動的ストレッチ」の正しい使い分けをわかりやすく解説します。

反復的な速いストレッチの弱点

1970年代には、反復的で速い伸張、いわゆる“バリスティックストレッチ”が主流でした。
しかし、その後の研究で、この方法には重大なリスクがあることが明らかになりました。

反復的な速いストレッチは、

·         関節包の癒着を無理にはがして患部を傷つける

·         防御的な筋反射を誘発し、不必要な筋緊張を強める

といった作用を引き起こし、結果としてリラクセーションが得られず、むしろ筋の緊張を悪化させることが分かりました。

そのため、「筋の伸張には静的ストレッチを使う」ことが主流になっていきました。

静的ストレッチ:柔軟性向上とリラックス効果

静的ストレッチとは、反動を使わずにゆっくりと筋肉を伸ばし、その姿勢を10〜30秒ほど保持する方法です。
この穏やかな伸張によって、筋肉の緊張を和らげ、関節可動域を拡大させ、柔軟性を高める効果があります。

また、深呼吸を取り入れながら行うことで、副交感神経が刺激され、心身のリラックスを促す効果もあります。

静的ストレッチの主な目的

·         運動後のクールダウン

·         関節可動域の拡大

·         柔軟性の向上

·         心身のリラックス

静的ストレッチの弱点:筋力・パフォーマンスの低下

一方で、静的ストレッチには注意すべき弱点もあります。
研究により、静的ストレッチの後には筋力やパフォーマンスが一時的に低下することが確認されています。

Kayら(2015)やBouvierら(2017)は、静的ストレッチが筋腱の力学的特性を変化させ、筋出力を下げることを報告しました。

さらにMoore(1991)の研究では、生理学的な観点から、静的ストレッチの後に脊髄レベルの興奮性が低下し、神経的な抑制作用によって筋力発揮がしづらくなることが示されています。
つまり、「ストレッチ後に身体が軽く感じる」のは、実際には神経的にブレーキがかかっている状態なのです。

静的ストレッチが流行した背景と誤解

1970年代から1990年代にかけて、静的ストレッチは“健康習慣”として広く推奨されていました。
テレビや雑誌では、「出勤前に壁を押してアキレス腱を伸ばそう」と紹介され、多くの人が朝のルーティンとして実践していました。

しかし、私が病院勤務をしていた頃、アキレス腱を断裂して来院された患者さんの多くが、
「毎朝ストレッチをしていたのに、なぜ切れたのか納得できない」と訴えていました。

また、スポーツ外傷で来院した方の中には、
「1時間もストレッチしたのに、なぜアキレス腱が切れたのか不思議だ」と言う方もいました。

その原因はすでに明らかになっています。
静的ストレッチを過度に行うことで、必要以上に可動域が広がり、筋力や安定性が低下してしまうのです。
(Kay, 2015; Bouvier, 2017)

注意!

静的ストレッチは、あくまでリラクセーション目的で行うものです。

痛みの改善を目的に行ってはいけません。

炎症や損傷を抱えた組織を無理に伸ばすと、状態が悪化するリスクがあります。

 

静的ストレッチから動的ストレッチへ

現代の運動科学では、「運動前には静的ストレッチではなく、動的ストレッチ(ダイナミックストレッチ)を行う」ことが推奨されています。

動的ストレッチは、筋肉を動かしながらゆっくりと伸ばしていくストレッチ法です。
ラジオ体操のように、身体を大きく動かしながら筋肉を温めることで、筋温を上げ、神経や筋の反応性を高める効果があります。

ウォーキングやスクワットなどの軽い運動も、動的ストレッチに分類されます。

動的ストレッチの効果:最新研究より

近年の研究では、動的ストレッチを適切に行うことで、

·         スプリント速度

·         垂直跳び

·         筋力発揮能力

など、さまざまなパフォーマンス指標が向上することが報告されています。
(Puentedura et al., 2022; Behm & Chaouachi, 2020; McHugh & Cosgrave, 2020)

また、定期的な動的ストレッチは、柔軟性やバランス能力を維持し、転倒予防にも寄与することが示されています。
(Fiatarone et al., 2021; Cruz-Montecinos et al., 2024)

動的ストレッチの注意点

動的ストレッチは効果的ですが、やり方を誤ると逆効果になる場合もあります。

·         急激な動きや反動を使いすぎると、筋線維損傷や関節不安定性を招く可能性があります。

·         痛みを我慢して行うと、急性炎症から慢性炎症へと悪化することもあります。

痛みのない範囲で、段階的に強度を上げながら、正しいフォームで行うことが大切です。
特に高齢者や運動経験の少ない方は、専門家(理学療法士など)の指導を受けながら安全に行うことをおすすめします。

まとめ:ストレッチは「目的別」に使い分ける

目的

推奨ストレッチ

注意点

運動前・出勤前

動的ストレッチ

反動を使いすぎない

運動後・就寝前

静的ストレッチ

リラックス目的で行う

·         運動前:動的ストレッチで筋温を上げ、関節と神経を活性化

·         運動後:静的ストレッチで筋緊張を緩め、リカバリーとリラックスを促進

ストレッチは「量」より「質」、そして「タイミング」が命です。
自分の身体の反応を感じながら、目的に合わせて正しく使い分けていきましょう。

参考文献

Kay, A. D., et al. (2015). Effects of contract-relax, static stretching, and isometric contractions on muscle-tendon mechanics. Medicine & Science in Sports & Exercise, 47(10), 2181–2190.

Bouvier, T., et al. (2017). Acute effects of static stretching on muscle-tendon mechanics of quadriceps and plantar flexor muscles. European Journal of Applied Physiology, 117(7), 1309–1315.

Moore, M. A., & Kukulka, C. G. (1991). Depression of Hoffmann reflexes following voluntary contraction and implications for proprioceptive neuromuscular facilitation therapy. Physical Therapy, 71, 324–329.

Puentedura, E. J., et al. (2022). Effects of dynamic stretching on performance: A systematic review. Journal of Strength and Conditioning Research, 36(1), 1–12.

Behm, D. G., & Chaouachi, A. (2020). A review of the acute effects of static and dynamic stretching on performance. European Journal of Applied Physiology, 120(2), 1–14.

McHugh, M. P., & Cosgrave, C. H. (2020). To stretch or not to stretch: The role of stretching in injury prevention and performance enhancement. Sports Medicine, 50(5), 907–917.

Fiatarone, M. A., et al. (2021). Effects of stretching on flexibility and balance in older adults: A systematic review. Journal of Aging and Physical Activity, 29(3), 421–441.

Cruz-Montecinos, C., et al. (2024). Impact of different stretching modalities on functional performance in older adults: A systematic review and meta-analysis. Journal of Gerontology: Medical Sciences, 79(2), 234–245.

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