デスクワークで一日中座りっぱなし、あるいは接客業や工場で立ちっぱなし…。多くの現代人が抱える「腰痛」の悩み。実はその原因、あなたの毎日の「働き方」に隠されているのかもしれません。
今回は、仕事中の姿勢と腰痛に関する興味深い研究報告をご紹介しながら、今日からできる腰痛対策のヒントを探ります。
「立ち仕事」の宿命?
腰痛になりやすい人の特徴
まず、立ち仕事に従事する人々を対象とした日本の井上(Inoue)らの研究を見てみましょう。ある電気関係の製造会社で働く従業員691人を調査したところ、1週間のうち48時間以上続く腰痛を経験した人は、全体の20%にものぼりました。特に、「女性」と「過去に腰痛を経験したことがある人」は、腰痛を発症するリスクが有意に高いことがわかったのです (Inoue G, et al. 2020)。
立ち仕事は腰に負担がかかりやすいイメージがありますが、この研究は、特に注意が必要な人々がいることを示唆しています。
「座りっぱなし」も危険!
30分に一度の“立ち上がり”が救世主に
では、「座り仕事なら安心か?」というと、決してそうではありません。しかし、オフィスワーカーにとっては朗報となる研究結果があります。
Thorpらの研究では、過体重または肥満のオフィスワーカーを対象とし、1日を通して30分ごとに座った姿勢から立つ姿勢へと切り替えることを試みました。その結果、仕事の生産性を維持したまま、疲労レベルと腰周りの不快感が大幅に減少することが確認されたのです (Thorp AA, et al. 2014)。
デスクワークの方は、タイマーをセットするなどして、30分に一度は意識的に立ち上がる習慣をつけるだけで、腰への負担を大きく軽減できるかもしれません。
同じ姿勢で固まらないようにすることが重要
ここまでの話で、「座りっぱなしも立ちっぱなしも良くないなら、どうすれば…?」と思われたかもしれません。Leivasらの研究では、様々な要因と腰痛の関連性を分析した結果、女性であること、ブルーカラーの仕事、頻繁な疲労感、過去の腰痛歴などに加え、「歩行時間が立っている時間より短い」ことも腰痛と関連があることが示されました。つまり、立っているよりも歩いている方が腰痛になりにくい可能性が示唆されたのです (Leivas EG, et al. 2022)。
この結果を裏付けるように、Munch Nielsenらのブルーカラー労働者を対象とした研究でも、「じっと立っている時間」と腰痛の強さには明確な関係が見られませんでしたが、「歩く時間」が長くなるほど腰痛の強度が低くなるという、有意な負の関係が認められました (Munch Nielsen C, et al. 2017)。
これらの報告からわかるのは、「座り続けること」や「立ち続けること」を避け、同じ姿勢で固まらないようにすることが重要だということです。そして、可能であれば意識的に「歩く」時間を作ることが、腰痛予防の最も効果的な対策の一つと言えるでしょう。
腰痛対策に新たな視点
まとめ
- 立ち仕事の方:特に女性や腰痛の経験がある方は要注意です (Inoue G, et al. 2020)。
- 座り仕事の方:30分に一度は立ち上がって、体をリセットしましょう (Thorp AA, et al. 2014)。
- すべての方へ:ただ立つだけでなく、意識的に「歩く」時間を増やすことが、腰痛のリスクを低減させる可能性があります (Leivas EG, et al. 2022; Munch Nielsen C, et al. 2017)。
日々の業務の中で少し意識を変えるだけで、つらい腰痛のリスクを減らすことができるかもしれません。ぜひ、今日から実践してみてください。
参考文献
- Inoue G, Uchida K, Miyagi M, et al. Occupational Characteristics of Low Back Pain Among Standing Workers in a Japanese Manufacturing Company. Workplace Health Saf. 2020;68(1):13-23.
- Thorp AA, Kingwell BA, Owen N, Dunstan DW. Breaking up workplace sitting time with intermittent standing bouts improves fatigue and musculoskeletal discomfort in overweight/obese office workers. Occup Environ Med. 2014;71(11):765-771.
- Leivas EG, Corrêa LA, Nogueira LAC. The relationship between low back pain and the basic lumbar posture at work: a retrospective cross-sectional study. Int Arch Occup Environ Health. 2022;95(1):25-33.
- Munch Nielsen C, Gupta N, Knudsen LE, Holtermann A. Association of objectively measured occupational walking and standing still with low back pain: a cross-sectional study. Ergonomics. 2017;60(1):118-126.